警察の一部始終は聞かせてもらった

先日、警察のお世話になった。
相手のいない事故を起こしたのだ。
このことはまた後日書くとして。

 

帰宅してLINEで母と話していると、コンコンコン、小さく玄関を叩く音が聞こえた。

「ごめんください。」男性の声。
「はい、お待ちください。」

大体の訪問者はここで名を名乗る。しかし男は名乗らない。訝しい気持ちを抱えながら30度ほど、そっとドアを開く。すぐ閉められるように。作業着のような水浅葱色の服を着た20代半ば、眉の薄い男性が立っていた。電気かガスか上下水道ってころか、服装からそう判断した。

「県警です。」

彼はささっと警察手帳をわたしに開いて見せた。出して開いて見せて閉じて仕舞う、一連の動作にだいたい4秒くらい。その素早さよりもまず、記憶に新しい事故のことが頭に浮かんだ。

真っ暗で小雨の降る現場。警察が到着するまでの30分あまり、車は2台しか通らなかった。担当の警察官はとても親身になってくれ、気が動転した私を優しく労ってくれた。
何か報告漏れがあったのか、別の問題が発覚したのか。一瞬で色々と巡った。

「実はですね、近くで泥棒が出たんです。」
「え、泥棒?近いんですか?」
「坂を登ったところで。何か情報がないかと。」

labaq.com

「このアパートも以前、変質者騒ぎがありまして。」

警官は続ける。え?不動産屋さんからそのような話は聞いていない。

「風呂や台所の窓を叩き割り侵入したケースがあったので、気をつけてください。」
叩き割ってくる相手に対してどう気をつけるのか。相手が男なら太刀打ち出来ない。それに間に「や」が挟んである時点で2件発生してるじゃないか。密室に侵入してくる者ほど怖いものはない。変質者の性対象じゃない自信はあるが、それでも怖い。

 

腑に落ちないわたしを横目に「まずはお名前を教えて下さい。」警察官は淡々と言う。

わたしの苗字は読みから漢字が直結しない。案の定、書き方を聞かれ口頭で説明するが、警察官はすぐに考えることを諦めた。

「わたしが書きましょうか?」と尋ねると「いえ」といい彼は白いiPhoneを出し漢字検索を始めた。ああ、そうか。警察官がiPhoneで検索する時代なのである。

その後、今日の行動を時間毎に詳しく聞かれた。朝何時に家を出て何時に戻ったか、どこへ行っていたのか。もちろんおばあさんの話もした。この話も後述。

最後に携帯電話の番号と生年月日を聞かれた。しかしまあこの人は警察官だかなんだか知らないが、わたしの個人情報を簡単に手に入れすぎじゃあないか?電話番号登録した途端に「友達ではありませんか?」と聞かれるこの時代に。先刻あなたが見せてくれた警察手帳なんぞ、チラリズムすぎて名前どころか本物か如何かの確証すら持っていないというのに。  

腹立ち紛れもあって訪ねてみた。
「あなたがこの地域の担当なんですか?」この人が今後わたしの一市民としての安全を確立してくれるならそれがわたしの個人情報料だ。
「いえ、わたしは刑事一課から来た当直で」(`・ω・´)キリッ…今日だけの人か。この地区の管轄交番について丁寧に答えてくれたが、収穫としては心許ない。大きな警察署が近くにあるので、治安がいいと踏んで決めたこの場所だった。暗雲立ち込める。

警察官改め刑事はわたしから搾り取るだけ搾りとり「一階じゃないから窓からは入らないと思うけど、戸締りはちゃんとしてくださいね。それでは。」と笑顔で曰う。恐怖心を煽るだけ煽って、お隣のドアを叩きに向かったのであった。

 

そしてドアを閉めるやいなや、耳元で静かで力強い声がこう言った。

「…一部始終は聞かせてもらった。」

そう、片耳イヤホンでLINEが繋がったままの母である。
それからしばらく、訪問個別調査のネタを肴に話に花が咲いた。iPhoneを出して検索し始めたところで手を叩いて笑った。事故の件で沈んでいた我が家に共通の笑いをくれた、これを情報料としようか。

泥棒さんが1日も早くお縄にかかり更生すること、またそうしなければ生きていかれない彼或いは彼女の状況や心情が1日も早く改善することを切に願う。

 

おわり。